日本の象徴として知られる富士山。
世界遺産に登録されたことが、静岡県民としてとても嬉しいライターげんです。
人々を魅了してやまないこの山は、はるか昔から和歌や絵画などの題材として広く描かれてきました。
そして、ここにもまた、富士山を見つめるデザイナーがいました。
めくり上げると富士山を見ることができるTシャツ『Fuji T』や、開封した部分が鏡富士に見える『Mt.envelop』など、
富士山をモチーフとしたグッズを数多く手がけているデザイナー、池ヶ谷知宏さんにインタビューしてきました。
▲ goodbymarket(グッバイマーケット)代表 池ヶ谷知宏さん
自ら立ち上げたgoodbymarketのオフィスで真剣な表情を見せる池ヶ谷さん。
建築を学ぶために上京した池ヶ谷さんは、建築を学ぶ傍ら、音楽活動に没頭していました。
「あの時は趣味というよりかは、本気で音楽活動に打ち込んでいました。」
goodbymarketのオフィスには、富士吉田口5合目の特設ブースへ向かう直前の富士山グッズが並べられていました。
「デザインの学校へ行ったわけではなく、バンドのホームページやフライヤーを自分でデザインしているうちに、
デザインするということに魅力を感じるようになりました。」
その後、音楽活動をやめ、方向転換をすることに。
池ヶ谷さんは「その経験が無ければ今の自分はありません。」と言います。
池ヶ谷さんはノートパソコンを開き、ある字を見せてくれました。(2011年に開催された自身の展示 emoglyph展 より)
「壁(かべ)」という字に見えますが、よく見ると右上が「辛」ではなく、「幸」になっています。
いったいどう読むのでしょうか?
「これは『気持ちで乗り越える』と読みます。壁だ壁だと思っていたら、それは全て壁になってしまいます。
辛い辛いと思っていたら、いつまでも辛いです。だから辛いという部分を幸せにすれば、それは途端にカベとは
読まなくなり、壁ではなくなります。視点をずらすことが大切だと思っています。」と池ヶ谷さん。
▲ 富士山を見慣れている人とそうでない人では話にギャップがある
卒業後、都内のインテリアショップの運営に携わり、あるキッカケからgoodbymarketを立ち上げました。
「僕は静岡県に生まれたのに、富士山が登下校時にもまったく見えない環境で育ちました。2008年に帰省し、
不動産屋に富士山の見える部屋はないかと尋ねた時、富士山なんてどこでも見られるというようなことを
言われました。見慣れている人とそうでない人の、富士山に対する気持ちのギャップがまた面白いと思ったことが
キッカケです。」
上京して地元を感じるものと言えば、ちびまる子ちゃんと清水エスパルス、そして富士山だったと言う池ヶ谷さんは、
いつか富士山で何かできたらいいなと思っていました。
ターニングポイントとなったのは2010年の富士登山。
「それまでにアイデア段階にあった富士山をテーマにしたものを形にして富士山へ登ろうと思いましたが、Tシャツなら
着ていけるし、荷物にならないからちょうどいいと思い、Tシャツで何か作ろうかなと思ったのが登山の1週間前。
自宅でたまたま着ていた白いTシャツの端をつまんだらシワも含めて富士山の形になったんですよ。
これだ!と思いました。」
池ヶ谷さんは急いで、そのままTシャツにマジックで線を描き、デザインを確かめました。
そうして完成したのが、『Fuji T』だったのです。
衝動的に描いたその線が1番しっくりきたそうで、今の『Fiji T』に描かれている富士山のギザギザ部分は、
その時の手描きのものをベースにしています。
そうして臨んだ富士登山。
山頂の3776m時点で見知らぬ人にカメラを託し、ペロッとTシャツの裾をめくると、Tシャツに現れた富士山に居合わせた
人々から驚きの声があがりました。
ここで生まれたコミュニケーションをきっかけにgoodbymarketの立ち上げと富士山シリーズは加速することになります。
▲ 「富士山をバレずに着られるところがいいと思います。」というFuji T
「表にバッと描いても、あぁ、富士山ね。で終わりじゃないですか。めくって富士山が出てきたら、えっ? 富士山?!
ってなりますよね。そこから会話が弾めばと思いました。」と池ヶ谷さん。
モノを通じて生まれるコミュニケーション。
池ヶ谷さんは、この商品でどういうコミュニケーションが生まれるかということを大切に考え、デザインしています。
驚きの視点から富士山を発見する池ヶ谷さんに、デザインのポイントを教えていただきました。
「アイディアは日常生活に転がっています。それらを見過ごしているだけなんです。1つのものを色んな視点から
見ることが、とても大切なことだと思っています。僕の仕事は視点をずらし続けられるか、ですね。」
私達は多くの情報を目にして今を生きていますが、実は見過ごしている発見がたくさんあるのかもしれません。
少し立ち止まって視点を変えてみると、新しい何かを見つけられるのかも。
「今やっていることが例え夢とまったく違うようなことでも、それはきっと、その人の何かにつながります。
ポジティブな勘違いって大事だと思います。」と池ヶ谷さん。
「僕はモノを、コミュニケーションツールと捉えて作っています。商品を手に取ったお客さんからも手紙やメールで
反応があることは、とても嬉しく思います。いつかその気持ちを富士山にも還元していきたいと考えます。」
手紙でも、ハンカチでも、Tシャツ、ネクタイでも、富士山を見つけると、ついつい
「おっ、富士山だ!」と見てしまいますよね。
そんな楽しい富士山グッズを片手に、もっと富士山とコミュニケーションを楽しんでいけたら。
そう思った、ライターげんでした。
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※この記事は2013年7月に公開しました
『goodbymarket』
URL : http://goodbymarket.com/